瑠璃光がはっとして我に復った時、もう老人の姿は見えなかったにも拘らず、彼の膝の上には、正しく水晶の数珠が暁の露のように、珊々と輝いて居た。
十二月も末に近い朝まだきの、身を切るような寒風の中を、釈迦が嶽の頂上へ登ろうとするのは、いたいけな稚児に取って、三七日の水垢離に増す難行であろうものを、浅からぬ三世の宿縁を繋いで居る女人の、現世の姿に会いたさに、嶮しい山路を夢中で辿って行く瑠璃光には、何の苦労も何の障礙も感ぜられなかった。
途中から霏々として降り出した綿のような雪さえも、彼の一徹な意志と情熱とを、ます/\燃え上らせる薪に過ぎなかった。