それは一つには、雪子が何を云われてもはあはあとばかりで張合いのないせいでもあろうが、明かに沢崎には雪子がお気に召さないのに違いなく、そして、その由って来る主な原因はと云えば、どうも雪子の左の眼の縁にあるのではないかと、推量された。
と云うのは、雪子のその仄かなシミは、昨日から幸子の胸を暗くしていたので、今日は幾分でも薄くなってくれますようにと念じていたのに、生憎昨日よりも濃くなっているのであった。
そのくせ当人は例の如く無関心で、今朝もいつもの厚化粧をしようとするので、雪子ちゃん、少し濃過ぎるようやないかと、拵えを手伝ってやりながらそれと云わずにお白粉を薄くさせたり、頬紅を眼の下の方へひろげさせたり、いろいろにして見たのだけれども、矢張どうしても巧い工合に胡麻化し切れないので、幸子はこの座敷へ這入った時からヒヤヒヤしていたのであった。