名古屋よ、お母ちゃん、………お城が見えるよ、姉ちゃん、………と、悦子が起しにかかったのと、客がどやどや入り込んで来たのとで、二人ともちょっと眼を開くことは開いたが、名古屋を出ると直ぐ又たわいもなく眠った。
大府あたりから雨が降って来たのに、それも知らないで眠っているので、妙子が立って窓硝子を締めてやったが、彼方此方で俄に窓を締めたので、車室の中はひとしお蒸し暑い温気が籠り、大部分の客がこくりこくりやっていた。
と、幸子達の席から四側ばかり前方の、通路の反対側の席に後向きに掛けていた陸軍士官が、シューベルトのセレナーデを唄い出した。