幸子達の方からは、軍服の背中と、横顔の一部しか見えなかったが、まだ二十台の青年であることは明かで、少し含羞むような様子で唄っていた。
幸子達は、自分達が大垣駅で乗り込んだ時からこの士官がいたことは知っていたけれども、後姿を見ているだけで、顔つきなどは見ていなかったが、さっきの蛍の騒ぎの時に幸子達の存在は乗合客の注視を集めたので、士官の方では彼女達を見ていない筈はなかった。
士官は多分徒然の余りと、襲い来る睡魔を払うために唄い出したので、声に自信があるのであろうが、うしろでそれを聴いている花やかな人々のあることを感じ、そのために幾分固くなっているらしいのであった。