彼女はちょうどその少し前から、向う側の四五側隔てた席に、此方を向いて腰掛けている男の顔があるのを知っていたが、実はその顔が自分の寝顔にまともな視線を注いでいるらしいのに気が付いて、それではっと眼を覚ましたのでもあった。
男は、彼女が足を腰掛からおろして草履を穿き、そっと居ずまいを直したのを見ると、自分も一往窓の方へ眼を外らしたが、それでも何か気になることがあるらしく、暫くすると又ジロジロと雪子を見据えた。
雪子も最初はその無躾な視線を不愉快に感じるのみであったが、やがて、男が何か訳があって自分を視詰めているのではないか、と思うようになった。