その晩、彼女は十時過ぎに道玄坂の家に帰ったが、その男との邂逅のことは義兄にも姉にも話さないでしまった。
その日幸子も、帰りの汽車の中でいろいろと考えさせられていた。
彼女の頭の中には、一昨日の夜の蛍狩のこと、昨夜から今日の午前にかけての蒲郡のことなど、楽しかった遊びの後味よりも、ついさっき別れて来た雪子の、ひとりプラットフォームに立ってしょんぼり此方を見送っていた姿、今日も眼の縁の翳りが昨日ぐらいに目立っていた窶れた顔、―――などがいつ迄もいつ迄も消えずにいたが、それにつれてあの苦々しかった見合いの印象が、又してもよみがえって来るのであった。