注射は阪大の皮膚科の意見に従って、女性ホルモン剤とヴィタミンC剤とを、櫛田医師の所へ行ってして貰うのであったが、そんなことと、週に二回悦子のピアノの稽古がある日に、あとでおさらいをしてやることとが、近頃の雪子の仕事であった。
幸子もひとりぼっちになると屡〻ピアノに齧り着いて時を過したが、それにも飽きると二階の八畳で手習いをしたり、お春を呼び入れて琴の稽古をしてやったりした。
お春が最初手ほどきをして貰ったのは一昨年の秋のことで、幸子は大阪で七つ八つの幼い娘が入門の時に習う、「箱入りの、姫も出しけり雛祭」と云うあの唄や「四季の花」などから始めて、折々気が向くと教えてやったので、今では「黒髪」だの「万歳」だのが上っていたが、女学校が嫌いで女中奉公を志願した彼女も、芸事は好きであると見えて、今日は稽古をして上げると云われた日は急いで用事を片附けると云う風であった。