たしかその時は、下妻夫人と、名前は忘れたが東京の何とか云う凄いハイカラな気障な奥さん―――亜米利加帰りの、「何々であんすけど」と云う不思議な言葉づかいをする夫人―――が一緒で、病気を押して面会した幸子はいつになく無愛想にあしらい、怱々に帰してしまったのであったが、それに気を悪くしたのか、あれきり丹生夫人は訪ねて来たことがなかった。
「ああそうそう、あの時は丹生さんにえらい失礼してしもうたんですが、何とか思うていらっしゃるんではないでしょうか」と云うと、「いいえ、そんなことよりか、雪子お嬢さんの噂をなすって、あの妹さんはどうなすったか知らん、まだお極まりにならないなら好い人があるんだけどって仰っしゃるんですの。
今雪子さんの話が出たんでふっと思いついたんだけれど、あの人にならきっと雪子さんが向きはしないか知らって仰っしゃって、―――」と、井谷はだんだんそう云う風に吹き込むのであった。