今雪子さんの話が出たんでふっと思いついたんだけれど、あの人にならきっと雪子さんが向きはしないか知らって仰っしゃって、―――」と、井谷はだんだんそう云う風に吹き込むのであった。
私は何分丹生夫人とは初対面であるし、ましてその夫人の心当りの「好い人」と云うのがどんな方なのかも分らなかったけれども、奥さんと仲好しの夫人であるからには信用しても大丈夫と思ったので、是非お嬢さんのために一と肌脱いでお上げになるようにお願いした。
何でもその方と云うのは医学博士で、前の奥さんがお亡くなりになり、十三四になる女の児が一人おありになるが外には何も係累がない、お医者さんが本職だけれども今は全然その方はなさらず、道修町の或る製薬会社の重役をしておいでになる、と、私の聞いたのはそれだけであるが、悪くなさそうな話なので、わたくしでお役に立ちますならお手伝いをさせて戴きますから、何卒その方をお世話して上げて下さいまし、蒔岡さんも以前のようなむずかしい注文はなさらない筈です、そう伺ったらちっとでも早い方がようございますと、その場で直ぐに話をすすめた。