何でもその方と云うのは医学博士で、前の奥さんがお亡くなりになり、十三四になる女の児が一人おありになるが外には何も係累がない、お医者さんが本職だけれども今は全然その方はなさらず、道修町の或る製薬会社の重役をしておいでになる、と、私の聞いたのはそれだけであるが、悪くなさそうな話なので、わたくしでお役に立ちますならお手伝いをさせて戴きますから、何卒その方をお世話して上げて下さいまし、蒔岡さんも以前のようなむずかしい注文はなさらない筈です、そう伺ったらちっとでも早い方がようございますと、その場で直ぐに話をすすめた。
で、それでは一往先方の意向をたしかめてみましてと、丹生夫人が云うのを、それもそうですが、大体のお打ち合せだけして置こうではありませんかと云うと、じゃあまあ、恐らく異議もないでしょうし、あっても私が否応なしに引っ張り出しますから、その人の方は大丈夫ですが、蒔岡さんの方はあなたが引き請けて下さいますね、何処か簡単な料理屋にでも落ち合って一緒に御飯を戴くと云うようなことにして、場所は大阪、日は二三日うちがようございますが、シカとしたことはいずれ電話で御相談しましょう、と云う訳であったので、ええ、ほんとうに結構でございますわ、蒔岡さんもきっとお喜びになるでしょうと、私もお引き請けしてしまった。
別れる時にも、では必ずお待ちしておりますよと、くれぐれも念を押して置いたので、近いうちに電話があるに違いないと思っているが、その時は改めてお宅へお伺い致しますから、………と云うのであった。