話題は暫く関東と関西との風俗や言葉の比較に移ったが、大阪で生れて、東京で育って、又大阪へ帰って来たと云う丹生夫人は、「あたしは両棲動物よ」と云うだけあってそう云うことには誰よりも通であり、貞之助や井谷を相手に東京弁と大阪弁との鮮やかな使い分けをして見せるのであった。
それから、嘗て美容術の研究に一年ばかり亜米利加へ行って来たことのある井谷が「あちらの話」を持ち出すと、橋寺が独逸でバイエルの製薬会社を視察した時のことを云い出して、会社の規模が非常に大きいこと、そこの工場の構内には映画館でも道頓堀の松竹座ぐらいのものが建っていること、などを語ったが、井谷が好い加減なところで話の撚りを戻すように努めて、橋寺の娘のことだの、国元の事情だのを尋ねたり、雪子と彼とが言葉を交し合うような切掛けを作ったりし始めたので、いつか再び話題は彼の再婚問題に復って行った。
「お嬢さんは何と仰っしゃっていらっしゃるの」