これこれのお嬢さんを見せて上げますと云う丹生夫人の言葉に釣られて、見て置いても損はないぐらいな考で出て来たのであるにしても、口で云うほど「気持が動いていない」ものならば、出て来る筈もないのであるから、見せかけよりは「動いている」と見てよいのではなかろうか。
さっきから頻りに困ったような様子をしているのは、幾分誇張的に振舞っているので、腹の中では雪子が彼の注文に篏まるような女性であったら貰ってもよいと云う気があるに違いなく、全くの冷やかしで来たのであるとは思えないのであるが、何しろ彼の応対は丹生夫人が「瓢箪鯰」と云った通り、円転滑脱過ぎるので、今夜の雪子と云うものが彼にどう云う印象を与えつつあるのか、ちょっと外部からは窺うことが出来にくいのであった。
雪子を除く四人の者たちは、今夜は皆よく打ち解けてしゃべったけれども、雪子は最初から女ギャングの言動に胆を奪われた気味合いで、殆ど仲間入りをせず、たまたま橋寺と言葉を交す切掛けを渡されても、いつもの癖で容易にそれに乗ろうともしなかったし、橋寺の方も、専ら女ギャングとの遣り取りに忙殺されて、雪子に対してはおあいそに二三度話しかけたぐらいなことに過ぎなかった。