そう云う訳で、相手の心持が読めないままに、貞之助は別れる時も、もうこれきり会わないのか、又改めて会うことになるのか、その辺のことがよく分らず、挨拶も程々にして置いたのであったが、井谷は阪急で一緒に帰って来る途々、この縁談は丹生さんの奥さんと私とできっと纏めて見せる、橋寺さんが彼処まで乗り出した以上否も応も云わせることではない、あの人だって内心雪子お嬢さんが気に入ったものと、私は睨んでいる、と云うようなことを、貞之助の耳の端へ口を寄せて繰り返し云いつづけたのであった。
十五
その晩貞之助は幸子に橋寺の印象を語り、見たところでは先ず満点と云ってもよい人物であり、まことに好ましい相手ではあるが、目下当人は再婚問題を考慮中と云う程度で、丹生夫人や井谷が云うほど話が熟しているのではないらしいので、まあもう少し待って見るより仕方がない、うっかりあの人たちの云うことを信用すると、馬鹿を見ないとも限らない、―――と、縁談については去年以来臆病になって来ている夫婦なので、そんな風に話し合っていたのであったが、その翌日の夕方井谷が訪ねて来、今朝もう早速丹生さんの奥さんから電話があったので、そのことでちょっとお伺いした、と云い、昨夜のあの人をどう御覧になったか、雪子お嬢さんはどうお思いになったでしょうか、と云うようなことを尋ねた。