その晩貞之助は幸子に橋寺の印象を語り、見たところでは先ず満点と云ってもよい人物であり、まことに好ましい相手ではあるが、目下当人は再婚問題を考慮中と云う程度で、丹生夫人や井谷が云うほど話が熟しているのではないらしいので、まあもう少し待って見るより仕方がない、うっかりあの人たちの云うことを信用すると、馬鹿を見ないとも限らない、―――と、縁談については去年以来臆病になって来ている夫婦なので、そんな風に話し合っていたのであったが、その翌日の夕方井谷が訪ねて来、今朝もう早速丹生さんの奥さんから電話があったので、そのことでちょっとお伺いした、と云い、昨夜のあの人をどう御覧になったか、雪子お嬢さんはどうお思いになったでしょうか、と云うようなことを尋ねた。
幸子は夫にも云われていたので、結構なお方のように思うけれども、何分先方さんのお考がもう少しハッキリしないことには、と云うと、いいえ、それは御懸念には及びませんの、と云って、ただあのお嬢さんは内気で陰気な性質のように思われるが、その点はどうか知らん、自分は花やかな、ぱっとした感じの人が好きなんだけれどって、今朝丹生さんの奥さんに電話でそんなお話があったそうですの、と云うのであった。
そして、それでわたくし、そう申しましたのよ、誰でも雪子お嬢さんに初めてお会いになった方はそう云う風にお思いになるんだけれど、決して陰気な方じゃございませんから、橋寺さんによくそう仰っしゃって下さいましって、―――正直に云って、内気と云うことは云えるかも知れませんけれど、陰気ではいらっしゃいませんわ、おしとやかでいらっしゃるから、一寸見にはそうお見えになりますが、だんだんお附合いして行くと、思いの外、と申しては失礼かも知れませんが、趣味でも何でもほんとうに思いの外ハイカラで、モダーンで、明るい感じのするお方ですわ、ですからわたくし、あのお嬢さんは橋寺さんの理想通りの花やかなお方なんですから、譃だと思うならお附合いになって御覧なさい、第一音楽はピアノがお好き、召上り物は洋食がお好き、御覧になる物では西洋映画がお好き、語学は英語と仏蘭西語をなさると伺っただけでも、明朗なお方だと云うことが分るじゃありませんか、お召物は和服がお好きのようだけれど、それでもああ云う花やかな袂の長い友禅のお召がお似合いになると云うのは、やっぱり性質に派手なところがおありになるからです、そう云うことは附合って御覧になれば直きに分ります、いい所のお嬢さんで初対面からぺらぺらおしゃべりをするような方にロクな方はございませんて、わたくし電話を何通話もつないで、丹生さんの奥さんに散々申しましたのよ、―――と、そう井谷は云ってから、しかし雪子お嬢さんも、あんまり大人しくしていらっしゃると誤解されますから御損ですわ、今少し勇気をお出しになってお話しなすった方がようございますわ、近いうちにもう一遍あの方を引っ張り出しますから、何卒その時はそのおつもりで、なるべく明朗な印象をお与えになるようになすって下さい、と、そんな注文をして帰った。