そして、それでわたくし、そう申しましたのよ、誰でも雪子お嬢さんに初めてお会いになった方はそう云う風にお思いになるんだけれど、決して陰気な方じゃございませんから、橋寺さんによくそう仰っしゃって下さいましって、―――正直に云って、内気と云うことは云えるかも知れませんけれど、陰気ではいらっしゃいませんわ、おしとやかでいらっしゃるから、一寸見にはそうお見えになりますが、だんだんお附合いして行くと、思いの外、と申しては失礼かも知れませんが、趣味でも何でもほんとうに思いの外ハイカラで、モダーンで、明るい感じのするお方ですわ、ですからわたくし、あのお嬢さんは橋寺さんの理想通りの花やかなお方なんですから、譃だと思うならお附合いになって御覧なさい、第一音楽はピアノがお好き、召上り物は洋食がお好き、御覧になる物では西洋映画がお好き、語学は英語と仏蘭西語をなさると伺っただけでも、明朗なお方だと云うことが分るじゃありませんか、お召物は和服がお好きのようだけれど、それでもああ云う花やかな袂の長い友禅のお召がお似合いになると云うのは、やっぱり性質に派手なところがおありになるからです、そう云うことは附合って御覧になれば直きに分ります、いい所のお嬢さんで初対面からぺらぺらおしゃべりをするような方にロクな方はございませんて、わたくし電話を何通話もつないで、丹生さんの奥さんに散々申しましたのよ、―――と、そう井谷は云ってから、しかし雪子お嬢さんも、あんまり大人しくしていらっしゃると誤解されますから御損ですわ、今少し勇気をお出しになってお話しなすった方がようございますわ、近いうちにもう一遍あの方を引っ張り出しますから、何卒その時はそのおつもりで、なるべく明朗な印象をお与えになるようになすって下さい、と、そんな注文をして帰った。
幸子は内々気に懸けていたあの眼の縁の翳りが、好い塩梅に今度はそれほど目立たなかったので、先ずほっとしながら、それにしても果して脈があるものかどうか、井谷の云うことを話半分に聞いていたのであったが、その翌日の午後三時頃に電話があって、わたくし只今大阪に参っているのですが、これから一時間ばかりしてから、丹生さんの奥さんと御一緒に橋寺さんをお連れしてお伺いさせて戴きます、と云って来た。
幸子は慌てて、宅へおいで下さるのでしょうか、と云うと、はあ、そうですの、今日は余り時間がおありにならないそうで、ほんの二三十分と云うことなので、ほかに適当な会合の場所もございませんし、それにお宅の御様子も見せて戴きたいように仰っしゃっていらっしゃいますから、と、井谷は云って、宅へおいで下さるのは、あの、ちょっと、………と、幸子が渋りかけるのを皆まで聞かずに、いえ、今日は突然のことですし、ほんとに二三十分なんですから何も御構い下さらないで宜しいんですのよ、折角橋寺さんのお心持が動いていらっしゃるのに、変更したために又拗れてもいけませんから、是非そうさせて下さいましな、と、圧っ被せて来るのであったが、雪子の気持を測りかねて、どうしょう?