幸子は内々気に懸けていたあの眼の縁の翳りが、好い塩梅に今度はそれほど目立たなかったので、先ずほっとしながら、それにしても果して脈があるものかどうか、井谷の云うことを話半分に聞いていたのであったが、その翌日の午後三時頃に電話があって、わたくし只今大阪に参っているのですが、これから一時間ばかりしてから、丹生さんの奥さんと御一緒に橋寺さんをお連れしてお伺いさせて戴きます、と云って来た。
幸子は慌てて、宅へおいで下さるのでしょうか、と云うと、はあ、そうですの、今日は余り時間がおありにならないそうで、ほんの二三十分と云うことなので、ほかに適当な会合の場所もございませんし、それにお宅の御様子も見せて戴きたいように仰っしゃっていらっしゃいますから、と、井谷は云って、宅へおいで下さるのは、あの、ちょっと、………と、幸子が渋りかけるのを皆まで聞かずに、いえ、今日は突然のことですし、ほんとに二三十分なんですから何も御構い下さらないで宜しいんですのよ、折角橋寺さんのお心持が動いていらっしゃるのに、変更したために又拗れてもいけませんから、是非そうさせて下さいましな、と、圧っ被せて来るのであったが、雪子の気持を測りかねて、どうしょう?
雪子ちゃん、悦ちゃんはお春どんを附けて神戸へ行かしてもええけど、………と云うと、そないせんかてええわ、二人とももう気が付いてるらしいよってに、と、珍しく気さくに云うので、そうでございますか、そんならお待ち申し上げます、と、幸子はつい承諾してしまった。