井谷は自分だけ廊下へ出て来て幸子を呼び、今日はこいさんはいらっしゃいませんの?
と聞くので、幸子はぎくっとしながら、生憎妙子は出かけておりまして、と云うと、では悦子お嬢さんだけでもお出になって下さい、橋寺さんのお嬢さんもお連れして来たかったんですが、今日は急なことでしたので、この次にはきっとお連れしますわ、ちょうど悦子お嬢さんとお友達におなりになれますわ、と云ったりして、お嬢さん同士が先ず仲好しになってくれるのが一番よい、そうしたら橋寺も一層心が動くであろうし、必ず巧く行くと思う、と云うのであった。
貞之助も、雪子ちゃんがそんな気持になってくれたのは幸いだから、悦子にも出て貰って彼女の観察を聞くのもよかろう、と云い出して、貞之助、幸子、雪子、悦子の四人で応対したが、その日も橋寺は矢張二人に引っ張り出されて来たと云う態度に変りはなく、どうもこの方々に遇っては叶いません、と云う風に云い、斯様に突然押しかけて参るのは失礼だと思ったのですが、全く女ギャングに拉致されて来たのでありまして、わたくしの本意ではなかったのですから、と、頻りにそんな言訳をしたり、わたくしのような一介のサラリーマンが此方のお嬢さんをお貰いするなんて、実際身分違いなんでして、と、どう取ってよいか分らないようなことを云ったりした。