が、丹生夫人に云わせると、彼女たちが余り端からやいやい云うものだから、照れ隠しにああ云う様子をするのだけれども、お腹の中は大いに色気があるのである、ただ正直のことを云えば、亡くなった細君は恋女房だったので、今でもまだ多少仏への手前があり、その人の遺れ形見であるところの娘の思わく、と云うようなことにも気がねがあるらしい、それで再婚するにしても、なるべく受動的に、人にすすめられて余儀なくそうする、と云う形を取りたいのでもあろうし、又実際に、自分では蹈ん切りが付かないので誰かに後から突き落して貰いたいのでもあろう、ほんとうに気がないものならいくら何でも二度も引っ張り出されて来る訳がないし、今日にしても、たった一遍会ったばかりのお嬢さんの家へ押しかけるなんて非常識な、と口では云いながら結局出かけて来てしまったのは、雪子さんに気がある証拠ではなかろうか、と云うのであって、成る程そう聞けばそうも思えないことはなかった。
それで丹生夫人は、橋寺氏としては娘の思わくと云うことを重大に考えているに違いないから、娘に気に入る人であったら一も二もあるまい、ついてはこの次の機会に娘を雪子さんに会わせるように取り計らうから、その時は是非お宅の悦子さんも出席なすって、せいぜい仲好しになるようにして戴きたい、と云うような話をして帰った。
幸子はそのあとで貞之助に、今迄に随分多くの縁談が持って来られたけれども、何と云っても今度のが一番である、此方の希望する条件が総べて備わっていて、地位、身分、生活程度等も、馬鹿げて好過ぎたり悪過ぎたりすることもなく、ちょうど恰好のところで、―――これを逃がしたらもう今度こそ、二度と再びこう云う縁はないであろう、で、丹生夫人の云うように先方がわざと受け身の態度を取り、此方から働きかけられることを望んでいるのなら、此方はもっと積極的に出て見たらどうであろうか、と、何か良い智慧を出して貰いたそうに云ったが、貞之助も、積極的に出ることには賛成だけれども、それならと云ってどうしたらよいか、何しろ肝腎の雪子ちゃんがああ云う消極的な人なのだから、こんな時には寔に困る、実際今夜あたりでももう少し如才なくしてくれるとよいのだが、………と云い、まあ何とか考えて見よう、と云ったきりで、別に名案も浮かばないでしまった。