そして、お入用の節は又いつでも、と云われて薬の包を渡されたものの、代金を取ってくれないのに当惑しながら、お忙しいところを何ですからこれで失礼いたしますと、一往は云って見たのであるが、いえ、忙しいことなんかないんです、まあその辺までお附合い下さいと云われると、何か話が出るかも知れないし、こう云う機会を利用しないのは損だと云う気がして、ついそのあとに附いて行った。
が、多分その辺の喫茶店あたりへ案内されることと思っていると、狭い露地の中へ這入って行って、とある仕舞屋のような造りの小料理屋の二階へ上った。
貞之助も大阪の街の地理には相当明るいつもりだけれども、こんな所にこんな露地や料理屋があることを知ったのは初めてで、一と間しかない二階座敷の四方には、建て詰まった人家の屋根と、ところどころに聳え立つビルディングばかりが見え、いかにも船場のどまんなかと云う感じがする。