彼は学生時代から作文には自信があるので、書きにくい文体で委曲を悉すように書き上げることはさほどむずかしいとも思わなかったが、書き過ぎると逆効果になる恐れがあるので、押し付けがましく聞えないように、かと云って遠慮し過ぎないように、程々に書くのに骨が折れた。
そして、一度は文句が強過ぎるような気がして書き直し、二度目には弱過ぎるような気がして又書き直し、漸く三度目に書いたものを投函したが、出してしまうと、出さない方がよかったのではないかと、直ぐ後悔する気になった。
もし先方に結婚の意志がないものなら、今更あの手紙に依って飜意するとも思われないし、又その意志があったとしたら、あんな手紙を貰ったために却って厭気がささないとも限らない、矢張自然の成行きに任して置くのが一番賢明であったかも知れない。