貞之助は、別にその手紙に返事を期待した訳ではなかったが、それでもその後二日たち三日たちして、先方から何の音沙汰もないと、じっとしていられないようになり、次の日曜日の朝、わざと幸子には目的を告げず、ちょっと散歩にと云って、家を出た。
そして阪急で梅田に出、タキシーに乗ると「烏ヶ辻まで」と、ついそう命じてしまった。
と云うのは、出がけに橋寺の家の番地を覚えて来たのではあるが、兎に角近所まで行って、どんな家に住んでいるのか、それとなく前を通って見よう、と云うぐらいな気持だったので、訪問しようとまで考えていたのではなかった。