で、ここらあたりと思う辻で車を下りて一軒々々表札を読んで行くと、その日は今年になって初めての春らしい天気であったせいか、歩いていてもひとりでに足が弾み、何となしに幸先がよいような気がして来た。
それに又、橋寺の家と云うのが、わりに新しい普請の、南を受けた明るい感じの家であった。
借家だということは聞いていたが、そんなに貧弱な構えではなく、ちょっと妾宅と云った風の、見越しの松に板塀の小ざっぱりした造りの二階家が三四軒並んでいるうちの一軒で、細君を亡くした中年の紳士が娘と二人で暮らすのにはこれでも広過ぎるくらいであろう。