一間の床の間に違い棚の附いた八畳の間で、花こそ生けてないけれども、そんなに悪い趣味でない掛軸、置物、欄間の額、二枚折の屏風、花梨の卓、卓上の煙草セット等が、型通りキチンと置いてあり、襖、畳等も汚れ目がなくて、殺風景な男鰥所帯らしく見えないのは、主人の嗜みもであるが、亡くなった細君の人柄も偲べるようである。
さっき門前から見上げた時にもそう思ったことだけれども、中へ通って見ると、部屋の感じが想像したよりも一層明るい。
白地に雲母の桐の紋のある襖が外の明りを一杯に反射しているので、室内に暗い隈が一つもなく、空気が隅々まで透き徹っていて、貞之助のくゆらす煙草の煙がくっきりと一つ所に環を作っている。