尤も話は相変らず雑談ばかりで、先日は失礼な手紙を差上げましてと、貞之助がちょっと挨拶したのに対して、いえ、御丁寧な御書面を戴きまして有難うございますと、橋寺もさりげなく答えたきり、あとは取りとめのない世間話をしたに過ぎない。
そのうちに貞之助はやっと気が付いて立ち上りかけたが、まあお待ち下さい、今日はこれから娘を連れて朝日会館へ映画を見に行きますので、御用がおありにならないならそこまで御一緒に参りましょう、と云われ、実はその娘を余所ながらでも見たいと思っていたところだったので、左様ですか、ではその辺まで、と、云わざるを得ないことになった。
もうその時分、街でタキシーを拾うのはむずかしくなって来ていたので、橋寺は電話で何処かのガレージからパッカードを呼んだ。