そのうちに貞之助はやっと気が付いて立ち上りかけたが、まあお待ち下さい、今日はこれから娘を連れて朝日会館へ映画を見に行きますので、御用がおありにならないならそこまで御一緒に参りましょう、と云われ、実はその娘を余所ながらでも見たいと思っていたところだったので、左様ですか、ではその辺まで、と、云わざるを得ないことになった。
もうその時分、街でタキシーを拾うのはむずかしくなって来ていたので、橋寺は電話で何処かのガレージからパッカードを呼んだ。
そして中之嶋の朝日ビルの角まで来ると、如何です、阪急までお送りしても宜しいですが、お差支えなかったらちょっとお降りになりませんか、と云うのであった。