幸子は虫が知らすと云うのか、この小さな事件が原因で、折角此処まで運んで来たものが駄目になってしまうのではないかと、ふっとそんな予感もしたが、しかし橋寺はああ云う如才ない愛想のよい人物であるから、まさか一遍そんなことがあったぐらいで話を打ち毀すの何のと云うこともあるまい、と思えた。
それにしても自分が家にいる時であったら、無理にでも即座に雪子を電話口へ出さずには措かなかったものを、ほんの五六分家を空けた隙に懸って来たと云うのは、考えれば考える程まずいことであった。
幸子は急ぎ足で戻ると電話のある台所の方へ行って見たが、もう電話は切れていて、雪子はそこにいなかった。