あたしも実は雪子さんの男性に対する態度が宜しくない、あれでは「陰気」と云われるのも当然と思ったから、努めて明朗な印象を与えるようにして下さいと忠告したのに、雪子さんは一向云うことを聴いてくれるらしい様子がなかった、あたしは雪子さんよりも、雪子さんにああ云う態度を取らして置く幸子さんの気持が分らない、今時華族のお姫様だって、宮様だって、あんなでよいと云う法はないのに、いったい幸子さんは自分の妹を何と思っているのだろうかと、丹生夫人は云っていた。
と、井谷はいくらか自分自身の鬱憤を丹生夫人に托して洩らす気味もあって、相当手厳しい口吻であったが、何と云われても幸子は返す言葉もなかった。
それでも井谷は男のような気象であるから云うだけ云うと胸がすうっとしたらしく、あとはさらりと打ち解けて世間話をし、幸子が萎げているのを見ると、そんなに悲観なさらないでもよい、丹生夫人は兎に角、私は今後もお世話するつもりでおりますなどと云ってくれたが、なお余談として例の眼の縁が話題に出、橋寺氏は雪子お嬢さんに前後三回会っているのに、お顔のあれには全然気が付かなかったらしい、ただ娘さんが、あの人の顔にはシミがあると、帰って来てからお父さんに云ったので、へえ、そうかね、僕はちっとも知らなかったと、橋寺氏は云ったそうである、と、そんな話をして、だからあのシミだって御心配なさる程のことはない、少しも問題にならない場合もあるのですから、と云ってくれたりした。