尚又、幸子はあの日、神戸を散歩した折に橋寺の娘を連れて元町の洋品店へ這入り、彼女のためにブラウスを見立ててイニシャルを入れるように注文して置いたところ、破談になった数日後にその刺繍が出来たので、贈らないのも却って変であると考え、井谷を通じて先方へ届けるようにして貰った。
と、それから半月ばかり過ぎて、或る日幸子が井谷の美容院へ行くと、橋寺さんから奥さんにこれを送って来られましたのでお預かりして置きましたと云って、ハトロン紙に包んだ箱を渡されたので、帰宅してから開けて見ると、中は京都のゑり万製の紋羽二重の胴着であったが、そう云っても幸子らしい柄が選んであったのは、丹生夫人あたりが頼まれて調えたものでもあろうか。
何にしても幸子たちは、それが先日のブラウスのお返しのつもりであろうと察して、そんなところにも橋寺の行き届いていることを感じたのであった。