幸子はとうとう雪子に向って露骨に不満を爆発させる機会を失い、ついぐずぐずに仲直りをしてしまったものの、まだ何か胸に燻っているものがあって釈然とはしなかったので、妙子が来たら一遍聞いて貰おうと心待ちにしていたのであったが、生憎とこのところ二十日間ばかり、―――ちょうど三月上旬の火曜日、あの「運命の電話」があった翌日の朝早くちょっと立ち寄って、「今度も亦あかなんだ」と云う一と言を聞くとひどくガッカリした様子で帰って行ったきり、ふっつり姿を見せないのであった。
ありていに云うと、幸子はこの間から丹生夫人や井谷から妙子のことを問われる度に、この人達は事情を知りつつ空惚けて探りを入れているのではないかと云う警戒心から、いつも当らず触らずの答をしていたのであったが、それと云うのは、妙子が別居していることはなるべく知られたくないけれども、万一奥畑との関係が問題化した場合には、あの妹は縁を切ってありますと、世間に向って云えるだけの用意をして置きたかったからなのであった。
が、そう云ういろいろの心づかいも水の泡に帰してしまった今、彼女は急に妙子の顔が見たくなったので、こいさんどないかしたのやろうか、電話かけて見ようかと、或る朝食堂で語り合っていた折のことであった、悦子を学校へ送って行ったお春が、なかなか帰って来ず、三時間もたって戻って、食堂をそっと覗いて見、幸子と雪子だけしかいないのを確かめると、そのまま這入って二人の傍へ忍びやかに寄って来て、