先ず病人の容態については、あれから幸子が辞去すると間もなく寒気がすると云ってガタガタ顫え出し、熱が一時は四十度以上に昇ったが、晩方になってもまだ八度内外はあった。
リンゲルの注射は、奥畑が電話口に出て斎藤医師にうるさくせがんだので、では兎も角もやって見ましょうと云うことになったが、やがて駈け付けたのはいつもの若先生ではなく、老先生の方で、来は来たものの、診察して見てちょっと考え、まだリンゲルをするには及びませんと云って、折角看護婦が用意しかけたのを中止させ、さっさと注射器を鞄に収めて帰ってしまった。
雪子はそんな有様を見るにつけても、いよいよ医者を取り変える必要を感じ、病人が少し落ち着いた折を待って、どうしても櫛田先生に来て貰うのがよいと思うが、と云う話を持ち出して、もう一度よく聞いて見ると、矢張推量した通りで、理由は云わないのだけれども、此処の家にいつ迄も臥ていたくない、病院でも甲麓荘の部屋でもよいから、別な所へ移して欲しい、その上でなら櫛田先生に診て貰うが、此処へ来られるのが嫌なのである、―――と、奥畑が枕元にじっと息を詰めているので、それに気がねしつつ云うのであるが、結局のところはそう云うことらしいのであった。