その間斎藤医師は時々腕時計を見ながらも別段厭な顔もせず、おとなしく待っていてくれて、やっとのことで現れた櫛田医師に引継ぎを終えると帰って行ったが、二人の医師の独逸語交りの談話の内容は、端の者にはどう云うことか窺い知るべくもなかった。
が、櫛田医師の診察の結果は、斎藤医師とは大分違っていて、僕には肝臓が脹れているようには思われない、従って肝臓膿瘍などと云うことは考えられない、熱の差し退きや悪寒戦慄を伴ったりするのは、悪質の赤痢には有り得ることで、異常と云う程のことではなく、大体に於いて順潮の経過を辿りつつあるものと考えられる、と、そう云うので、ただ何分にも衰弱がひどいからと、その場でリンゲルとヴィタカムフルの注射をし、後刻プロントジールの注射もするように「水戸ちゃん」に命じた。
そして、では又明日伺います、そう御心配なさることもないでしょうと、事もなげに云うのであったが、幸子は矢張安心がなりかねて、玄関まで送って出ながら、先生、ほんとうに大丈夫でっしゃろかと、涙の溜った眼を向けると、大丈夫です大丈夫ですと、いかにも確信ありげなのであった。