………けど、素人眼でも、昨日まではあんなではあれしませなんだのに、今日は何や人相まで変ってしもうてて、………あの顔つきは死期が近づいた人みたいに見えるやありませんか、と云うと、それは思い過しですよ、衰弱すれば誰でも一時あんな風になりますよ、と、櫛田医師はてんでそんなことは問題にしないのであった。
幸子は、櫛田医師を送り出してから自分も一旦帰宅することにして、院長室の蒲原医師に挨拶を済ますと蘆屋の家へ戻って行ったが、夫も、悦子も、雪子も、お春もいない、変にひっそりした西洋間の椅子にひとり腰掛けてぼんやりしていると、又しても忌まわしい場合が考えられて来るのであった。
彼女にして見れば、長年自分たち姉妹の体を手がけている櫛田医師がああ云うのであるし、その人は嘗て今迄に見立て違いをしたことがないのであるから、一往その言葉を信じてよいような気はするものの、―――斎藤医師の意見などよりこの人の意見の方を重んじたいのは山々であるものの、―――今度に限って、今朝の病人のあの顔つきを見てからは、何か、骨肉の者だけにしか分らないような予覚が感じられてならないのであった。