で、彼女はさしあたり、その予覚に従って本家の姉に知らせるだけは知らせて置く方がよいように思い、その厄介な手紙の筆を執るために戻って来たのでもあるが、それを書くにはあれ以後妙子を見放していたことから始めて、今度病気になったと云う通知を受けて引き取らなければならなくなったいきさつ迄を、多少は事柄に修飾を加えて述べる必要があるとすると、優に二三時間はかかる仕事なので、ちょっとは机に向う気になれず、ようよう重い腰を擡げて二階の部屋に閉じ籠ったのは昼の食事を済ましてからであった。
彼女は姉妹じゅうで最も筆蹟がすぐれていて、仮名書きを得意にし、文才にも秀でているところから、手紙を書くのをそんなに億劫がらない方で、本家の姉のように下書きなどはせず、好んで巻紙へ毛筆で、肉のたっぷりした大きい文字で打っ付け書きにするのであるが、今日はいつものようにすらすらとは行かず、二三度書き直しをしたりして次のような文を綴った。
暫く御ぶさたしていました間にいつか今年も好季節になり六甲の山に日々霞が棚引くようになりました。