彼女は姉妹じゅうで最も筆蹟がすぐれていて、仮名書きを得意にし、文才にも秀でているところから、手紙を書くのをそんなに億劫がらない方で、本家の姉のように下書きなどはせず、好んで巻紙へ毛筆で、肉のたっぷりした大きい文字で打っ付け書きにするのであるが、今日はいつものようにすらすらとは行かず、二三度書き直しをしたりして次のような文を綴った。
暫く御ぶさたしていました間にいつか今年も好季節になり六甲の山に日々霞が棚引くようになりました。
阪神間は今が一番麗しい時で、毎年のことですけれども、今時分になると私はいつも家の中にじっとしていられないようになります。