(後で分ったことであるが、奥畑はいきなり爺やに「蒔岡妙子の病室は此方ですか」と尋ね、爺やが誰方さんですかと二度聞いたのに対して、「僕だと云って下されば分ります」とばかり答えた。
彼が如何にしてこの別館に妙子の病室があることを嗅ぎ付け、如何にして玄関から庭伝いに病室の方へ廻れることを知ったかについては、最初お春が大分疑われたのであったが、多分誰から聞いたのでもなく、自分で根気よく探索したのであるらしい。
彼は板倉の事件以来、妙子の行動に対しては変に探偵的興味を抱くようになっていたので、今度も彼女が入院してから時々この病院の周囲を徘徊していたらしいのである)庭は廻り縁に沿うて鍵の手に、東から南へ延びていたが、彼は折柄満開の雪柳の花を揺がしながら奥の八畳の縁側の方へやって来、ちょうど病人の顔の見える位置に来て、少し開いていた硝子障子を外から手をかけて開けひろげ、ちょっとこの辺についでがありましたよってに、と、言訳とも付かずに云って、色眼鏡を外してニコニコした。