彼は板倉の事件以来、妙子の行動に対しては変に探偵的興味を抱くようになっていたので、今度も彼女が入院してから時々この病院の周囲を徘徊していたらしいのである)庭は廻り縁に沿うて鍵の手に、東から南へ延びていたが、彼は折柄満開の雪柳の花を揺がしながら奥の八畳の縁側の方へやって来、ちょうど病人の顔の見える位置に来て、少し開いていた硝子障子を外から手をかけて開けひろげ、ちょっとこの辺についでがありましたよってに、と、言訳とも付かずに云って、色眼鏡を外してニコニコした。
雪子は紅茶を飲みながら新聞を読んでいたところであったが、見知らぬ男が闖入して来たので吃驚している「水戸ちゃん」を安堵させるために、さあらぬ体にもてなして、自身縁側へ出かけて行って挨拶をし、それから、沓脱石の上に立ってモジモジしているのを、座敷へ上らせないように、急いで座布団を持って来てそこの縁端に席を設けた。
そして、奥畑が何か話しかけたそうにするのを避けて次の間へ行き、お春が煮かけていた重湯の土鍋をおろして銀瓶を掛け、それが沸くのを待って茶を入れた。