そして、奥畑が何か話しかけたそうにするのを避けて次の間へ行き、お春が煮かけていた重湯の土鍋をおろして銀瓶を掛け、それが沸くのを待って茶を入れた。
彼女はそのお茶をお春に持って行かせようとしたが、愛想のよいお春が掴まると面倒であることに気付いて、「お春どん、あとはあたしがやるよって、あんたもう帰り」と云い、自分で茶を持って出て、直ぐ又次の間へ引っ込んでしまった。
その日は花曇りのした生暖かい日のことで、座敷の障子が開け放してあったので、庭の方を向いて臥ていた病人は、面前に奥畑の姿が見え出してからそれが縁側に腰かける迄の動作を見ていた訳であるが、例の無表情な物静かな瞳を客の方へ注いでいるだけであった。