その日は花曇りのした生暖かい日のことで、座敷の障子が開け放してあったので、庭の方を向いて臥ていた病人は、面前に奥畑の姿が見え出してからそれが縁側に腰かける迄の動作を見ていた訳であるが、例の無表情な物静かな瞳を客の方へ注いでいるだけであった。
奥畑は雪子に逃げられて、ちょっと照れ臭さそうにしたが、やがてシガレットケースを出して、煙草に火を付けた。
そして、だんだん灰が溜って来たのを足もとに捨てようとして躊躇し、座敷の中をキョロキョロ見廻して、済みませんが、灰皿おまへんやろかと、誰に云うともなく云ったが、「水戸ちゃん」が気を利かして、有り合う紅茶々碗の皿を持って行った。