生れつき急勝で、注意力が散漫で、じっと一つ事に身を入れることの出来ない奥畑は、見る物と云ってはせいぜい映画ぐらいなところで、芝居などは辛気臭がってめったに覗かないのであるが、それでいて俳優と交際することを好み、以前金廻りの好かった時代には、しばしば彼等を茶屋や料理屋へ招いたものであった。
そんなことから、水谷八重子、夏川静江、花柳章太郎などとは、懇意な仲になっていて、そう云う連中が大阪へ来ると、舞台はロクに見もしない癖に必ず楽屋を訪問することを忘れなかったが、六代目なども、芸を愛すると云うのではなしに、ただ訳もなく人気役者と知合いになりたいところから、一度誰かに紹介して貰いたがっていたのであった。
妙子がいろいろと尋ねるので、奥畑は得意になって昨夜の坂口楼の座敷の模様を語りつづけ、六代目の口の利き方や冗談の云いっ振などを真似て見せるのであったが、恐らく彼は病人の前でこの話を披露したさに訪ねて来たのに違いなかった。