妙子がいろいろと尋ねるので、奥畑は得意になって昨夜の坂口楼の座敷の模様を語りつづけ、六代目の口の利き方や冗談の云いっ振などを真似て見せるのであったが、恐らく彼は病人の前でこの話を披露したさに訪ねて来たのに違いなかった。
雪子と二人で次の間に控えていたお春は、こう云う話を聞くことが何よりも好きなので、「早う帰り」と二度も雪子に云われながら、そのつど「はい」「はい」と返辞ばかりして密かに聴き耳を立てていたが、「お春どん、もう五時になるで」と、又云われると、仕方なしに立ち上った。
彼女は大概毎日午後病院へやって来て、ひとしきり食事の世話や洗濯などをして、夕飯の時刻までに蘆屋へ帰って行くのであるが、ああして奥畑の若旦那はいつ迄しゃべっているのであろう、病院へ来てはならない筈だったのに、御寮人さんがお聞きになったらきっと吃驚なさるであろう、好い加減に帰ってくれなかったら、雪子娘さんはどうなさるか知ら?