彼女は大概毎日午後病院へやって来て、ひとしきり食事の世話や洗濯などをして、夕飯の時刻までに蘆屋へ帰って行くのであるが、ああして奥畑の若旦那はいつ迄しゃべっているのであろう、病院へ来てはならない筈だったのに、御寮人さんがお聞きになったらきっと吃驚なさるであろう、好い加減に帰ってくれなかったら、雪子娘さんはどうなさるか知ら?
それでは約束が違いますから何卒お帰りになって下さい、と、娘さんではよう仰っしゃるまいが………と、お春は途々そう思いながら、新国道の柳の川の停留場へ出て、いつものようにそこから電車へ乗ろうとすると、折よく蘆屋川の顔見知りの運転手が、神戸の方から空のタキシーを飛ばして来たので、ちょっと!
帰りやったら乗せて行ってんかと、往来の此方側から声をかけて自分の傍へ車を着けさせ、わざわざ廻り道をさせて蘆屋の家の曲り角まで運んで貰った。