それでは約束が違いますから何卒お帰りになって下さい、と、娘さんではよう仰っしゃるまいが………と、お春は途々そう思いながら、新国道の柳の川の停留場へ出て、いつものようにそこから電車へ乗ろうとすると、折よく蘆屋川の顔見知りの運転手が、神戸の方から空のタキシーを飛ばして来たので、ちょっと!
帰りやったら乗せて行ってんかと、往来の此方側から声をかけて自分の傍へ車を着けさせ、わざわざ廻り道をさせて蘆屋の家の曲り角まで運んで貰った。
彼女は勝手口から息を弾ませて上って行き、台所で玉子の薄焼を作っているお秋に、御寮人さん何処にいやはる?