幸子は取り敢えずお春をそこに残して置いて、自分ひとり離れ座敷の夫の書斎へ行き、卓上電話に雪子を呼び出して(電話嫌いの雪子は最初「水戸ちゃん」を代りに出したが、済まないが雪子ちゃんに出て貰ってほしいと云うと、不承々々に自分が出た)聞いて見ると、まだ啓坊はいると云う返辞であった。
最初は縁側に腰かけていたのが、だんだん日が暮れて寒くなって来たので、上れとも云わないのに勝手に中へ這入って硝子障子を締め、枕もとに坐って話し込んでいる、それにこいさんが又どう云う訳か厭な顔もせず相手になっている、あたしは次の間に引っ込んでいたのだけれど、いつ迄そうしてもいられないので、座敷に出て、二人がしゃべるのを傍観している、さっきから帰って貰おうと思って、お茶を入れ替えて出して見たり、暗いのにわざと電燈を点さずに置いたり、いろいろにしているのだけれど、素知らぬ顔でいつ迄も下らないおしゃべりをしている、と云う。
あの人は何処かそう云う風なずうずうしいところのある人だから、黙っているとこれから始終やって来るようになるかも知れない、なかなか帰らないようなら、あたしが行って上げようかと云うと、でももう夕飯時であるし、今中姉ちゃんから私に電話が懸ったことも分っているから、そのうちには帰るであろう、わざわざ今から来てくれるにも及ぶまい、と云う。