その声をかけた時にも、雪子は襖の間から顔だけ出して挨拶をし、わざと送っても出なかった。
そんなことで、多分四時頃から六時頃まで、二時間ばかり上り込んでいたように思うが、それにしても一体こいさんが、「帰ってほしい」と云うことを一と言ぐらい云ってくれてもよかったではないか、あんな人が突然庭から這入って来て、いやに威張った口を利いたりして、(雪子は前から、中姉ちゃんのいる時といない時では啓坊の態度が大変違う、と云っていたが、昨日は特に横柄であったと云う)「水戸ちゃん」だって随分けったいに思ったであろうし、あたし等がどんなに迷惑しているか分っていたであろうに、こいさんなら「帰れ」と云うことを云える人でもあり、云うのが当り前ではないか、と、そう雪子は云うのであったが、でもその不平を面と向って妙子には云わず、蔭で幸子に訴えるのであった。
幸子は、そんな風では又二三日うちに来るかも知れないと思うにつけて、この際此方から訪ねて行って、今後病院へは二度と来てくれないように頼み込むことが必要であると感じたが、そう云えば、どちらにしても一遍奥畑へ挨拶に行くべき場合なのであった。