実はこのことは、折があったら一遍御寮人さんのお耳へ入れて置く方がよいのではないかと存じていたのでございました、と、そうお春は前置きをして云うのであったが、彼女は先月の下旬、奥畑の家に出入りしていた間にすっかりあの婆やと懇意になった。
しかし妙子があの家に病臥していた期間中は、お互にいろいろ用事が多かったので、ついぞゆっくり話し合ったことはなかったが、妙子が入院した翌日の朝、荷物がまだ少し残っていたのを取り纏めに行った時のことであった。
その日は奥畑が外出中で、婆やがひとり留守をしていて、まあお茶でも飲んで行ってくれろとすすめるままに、暫く上り込んでおしゃべりをしたが、婆やはその時頻りに幸子や雪子のことを褒めちぎり、お宅のこいさんはよい姉さんたちを持って仕合せだ、それに引き換えうちの若旦那は、自分にも悪いところがあるには違いないけれども、お家さん(先代の夫人)が亡くなってからは、兄弟にも見放されたようになってしまい、そうなると又世間の者も相手にしない有様なので、ほんとうに気の毒でならない、それにつけても、今ではただお宅のこいさん一人を頼りにしておられるらしいので、どうかこいさんが奥様になって上げて下さるとよいのですが、と、涙ぐみながらそう云って、是非この縁が纏まるようにあなたも力を添えて上げてくれろと、お春に頼むのであった。