お春もさすがにそれらをそのまま幸子に聞かせる勇気がなく、あまりひどいことばかりですよって、よう申しません、と云うのであったが、でも一つ二つ洩らしたのを記すと、婆やは妙子が宝石を何箇持っていて、それらの石は何々であるかと云うことをよく知っていた。
(妙子は事変が始まって人々が指輪を篏めるのを遠慮するようになってから、それらの石を宝石函に収めて命よりも大切にし、アパートへは持って来ないで幸子に保管を依頼していた)それと云うのが、それらの石は皆奥畑商店の商品であったのを、奥畑がそっと持ち出して与えたもので、それが発覚する度毎にお家さんが臀拭いさせられていたのを、婆やは何度も見たことがあると云うのである。
婆やの話では、宝石のままで与えたのもあれば、金に換えて与えたのもある、或は妙子が与えられた宝石を、密かに他へ売り飛ばしたのが、廻り廻って奥畑商店へ戻って来たこともある、尤も奥畑が兄の店から胡麻化した商品の悉くが、妙子の所へ運び去られた訳ではなく、奥畑自身の小遣いに化けたものもあるが、大部分が妙子の手に渡ったことは確かと見てよく、妙子はそれらを情を知って受け取ったのみならず、自分の方から特に孰の指輪がほしいと云ってねだったこともあるらしいと云う。