(妙子は事変が始まって人々が指輪を篏めるのを遠慮するようになってから、それらの石を宝石函に収めて命よりも大切にし、アパートへは持って来ないで幸子に保管を依頼していた)それと云うのが、それらの石は皆奥畑商店の商品であったのを、奥畑がそっと持ち出して与えたもので、それが発覚する度毎にお家さんが臀拭いさせられていたのを、婆やは何度も見たことがあると云うのである。
婆やの話では、宝石のままで与えたのもあれば、金に換えて与えたのもある、或は妙子が与えられた宝石を、密かに他へ売り飛ばしたのが、廻り廻って奥畑商店へ戻って来たこともある、尤も奥畑が兄の店から胡麻化した商品の悉くが、妙子の所へ運び去られた訳ではなく、奥畑自身の小遣いに化けたものもあるが、大部分が妙子の手に渡ったことは確かと見てよく、妙子はそれらを情を知って受け取ったのみならず、自分の方から特に孰の指輪がほしいと云ってねだったこともあるらしいと云う。
(指輪の外に、腕時計、ブローチ、コムパクト、頸飾等々があったことは勿論である)兎に角、何十年も奥畑家に奉公して、奥畑を赤子の時から育てている婆やのことであるから、細かいことをよく知っていて、そう云う風に例を引き出すと縷々として際限がないのであったが、しかし婆やは、自分でも云う通り、妙子を恨んだり憎んだりしているのではなく、いかに奥畑が妙子のために献身的であったかと云うことを立証しようとしている訳なので、お宅の皆さんはほんとうの事情を御存知ないところから、うちの若旦那を大層悪く取っておられ、それで結婚にも反対しておられるように思われるので、一と通りお話するのである、若旦那が勘当されるようになった原因が何処にあるかを考えて下すったら、よもやお宅さんで結婚を許さぬなどと云うことは仰っしゃるまいと思う、と云い、わたしはこいさんを善いの悪いのと云うのではない、若旦那がそれほど打ち込んでおられるお嬢さんなら、わたしに取っても大切なお方であると思っている、ついては何卒こいさんが気持を直して若旦那と一緒になって下さるように、皆さんのお力で仕向けて戴きたい、聞けばこいさんは、近頃又好きな人が出来たとやらで、そのためになお若旦那を袖にする傾きがあるらしいとのことだけれども、それがほんとうなら、若旦那の懐中がそろそろ淋しくなりかけて来たので、見切りを付けようとしておられるのかも知れない、などとも云った。