婆やの話が意外な方へ発展したので、お春はぎょっとして、「又好きな人が出来た」と云うのは誰から聞き込まれたのか、私は今日が初耳ですが、と云うと、それは私も確かなことは云えないけれども、この頃若旦那とこいさんとはよく痴話喧嘩をする、そんな時に若旦那が「三好」と云う名を口にして嫌味を云っておられるのを、たびたび聞いた、何でも神戸の人間らしいが、何処に住んで何をしている男なのかは明かでない、ただ若旦那が「バアテン」とか、「あのバアテンの男」とか云うことをよく云っておられるが、「バアテン」とは何のことだろう、と云うので、その男が神戸の何処かの酒場に勤めるバアテンダアであるらしいことは見当が付いたけれども、それ以上のことは婆やも全然知らないと云うので、深くは追究せずにしまった、と、そうお春は云うのであったが、その話のついでに分ったことは、妙子が相当な大酒飲みであることであった。
彼女はいつも幸子たちの前ではせいぜい過しても一二合ぐらいなのであるが、婆やの話だと、西宮の家で奥畑と飲む時は日本酒なら七八合、ウィスキーなら角罎の三分の一は平気で空ける、なかなか強くてめったに醜態は演じないけれども、たまに何処で飲んで来るのか、ぐでんぐでんに泥酔して奥畑に介抱されながら帰って来ることがあり、それが最近はだんだん頻繁になって来ていたと云うことです、と云うのであった。
二十四