雪子は、先月の末奥畑の家へ駈け着けてから、そのままずっと病院の方へ附き添って行き、今日で十日余りの間一度も帰らずにいたのであったが、お春が幸子の言葉を伝えると、その晩久振に帰って来て、家族と食卓を共にした。
幸子も夕方から起きて、努めて何事もなかったように食堂に出たが、貞之助は雪子の労をねぎらう意味で、もうその頃は貴重品になっていたバアガンディーの白葡萄酒を、乏しくなりかけた貯蔵の中から特に一本選んで来、自分で罎の埃を払い、気持のよい音をさせて栓を抜きながら、
「雪子ちゃん、もうこいさんはええのんか」