雪子はその日ちょっと病院へ戻って行き、「レベッカ」を持って直ぐ帰って来て、それから二三日はその本を読んだり、神戸へ映画を見に行ったりして、専ら骨休めをした。
そして、次の土曜日には貞之助の発議に従って、夫婦、悦子、雪子の四人で一と晩泊りで京都へ行き、兎も角も吉例の花見をしたことであったが、今年は時局への遠慮で花見酒に浮かれる客の少いのが、花を見るには却って好都合で、平安神宮の紅枝垂の美しさがこんなにしみじみと眺められたことはなく、人々が皆物静かに、衣裳なども努めて着飾らぬようにして、足音を忍ばせながら花下を徘徊する光景は、それこそほんとうに風雅な観桜の気分であった。
そのお花見が済んでから二三日して、幸子はお春を代理として西宮の奥畑の家に遣わし、さしあたり妙子が発病して以来の立替金だけを払って来させた。